人は、どのように変化するのでしょうか。
これ、とても大切な問いだと思うんですよね。
なぜなら、
「人は、何によって楽になるのか」
「何が起きると、前に進めるのか」
という見方によって、聴き方も変わってくるからです。
ここでは、そうした見方を「変化の理論」と呼んでみたいと思います。
「人はどう変わるのか」で、聴き方は変わる
例えば、
「人は気持ちを吐き出すことで楽になる」
と思っていれば、感情を引き出そうとするでしょうし、
「人は問題を整理すれば前に進める」
と思っていれば、原因を探したり、状況を詳しく聞きたくなるかもしれません。
また、
「人はアドバイスによって変わる」
と考えている人は、何か役に立つ助言をしようとするでしょう。
もちろん、アドバイスや分析が必要な場面もありますし、有効に働くこともあるので、ダメということではありません。
では、傾聴の立場から少し考えてみたいと思います。
ロジャーズが大切にした、人が変化しやすい関係
来談者中心療法(※1)を創始したロジャーズや、フォーカシング(※2)を体系化したジェンドリンは、人の変化をどのように考えたのでしょうか。
ロジャーズは、人には本来、自ら成長しようとする力があると考えました。
ただし、それは「放っておけば、勝手にうまくいく」という意味ではありません。
人は、自分の感じていることを否定されたり、評価されたり、急いで変えられようとしたりすると、
「こんなふうに感じてはいけない」
「これは言わないほうがいい」
「こんな自分ではだめだ」
というように、自分の気持ちや感覚を、心の奥に押し込めてしまうことがあります。
逆に、セラピストが受容的、共感的な態度で関わっていると、クライエントは、
「ここでは、このままの自分でいても大丈夫なんだ」
と感じられるようになっていきます。
その安心感の中で、これまで否定してきた気持ちや、見ないようにしていた感覚にも、少しずつ触れられるようになっていく。
そして、セラピストが向けてくれている受容的、共感的なまなざしが、クライエント自身の中にも育っていきます。
すると、自分の中に出てきた気持ちや感覚を、すぐに否定したり押し込めたりせずに、
「そう感じているんだな」
と、少し距離をおいて受けとめられるようになるんですね。
そのようにして、自己受容や自己共感の態度が育つと、自分の実感に沿って動くことも、少しずつしやすくなるのだと思います。
クライエントの中に、自分自身の話を聴く力、いわば「内なるカウンセラー」が育ってくる、と言ってもいいかもしれません。
ロジャーズが大切にしたのは、他者が人を変えることではなく、その人の中にある力が働きやすくなるような関係でした。
少し整理すると、ロジャーズは、人が変化しやすくなる「関係」に注目したのですね。
ジェンドリンが見出した、内側で起きる変化のプロセス
ジェンドリンは、ロジャーズの共同研究者として、セラピーの中で人がどのように変化していくのかを研究しました。
その中で見えてきたのは、セラピーがうまく進んでいくクライエントは、自分の内側にある、まだはっきりと言葉にならない感じに触れていた、ということでした。
例えば、ある状況について、
「なんとなく胸のあたりがモヤモヤする」
「うまく言えないけど、引っかかる感じ」
そんなふうに、まだはっきりと言葉にはならないけれど、漠然と感じられているものがあります。
その「感じ」に、急かさずにそっと寄り添っていると、ふと、
「あ、そういうことだったんだ…!」
というように、それまでなかった新しい意味が、その感じに触れている中でじわっと生まれてくることがあるんですね。
ジェンドリンは、こうした内側のプロセスが、人の変化に深く関わっていることを見出したのです。
傾聴の役割
そう考えると、傾聴で大切なのは、相手の代わりに答えを出すことではなく、
受容的、共感的に関わる中で、その人が自分の内側にある感じに触れ、そこから生まれてくるものを確かめていけるように、その場に一緒にいることなのだと思います。
ここまで見てくると、傾聴の役割は相手を変えようとすることではなく、
相手の内側で起きているプロセスに
関係の中で丁寧に同伴していくこと(付き添うこと)
と言えるかもしれません。
最初の話に戻ると、聴く人がどのような「変化の理論」を持っているかが、その人の聴き方そのものを形づくっていくのですね。
傾聴について、もう少しゆっくり学んでみたい方へ。
メルマガでは、相手を変えようとしない聴き方や、自分も苦しくならない関わり方について書いています。
よかったら、こちらから読んでみてください。
※1 来談者中心療法
カール・ロジャーズが創始した心理療法。
指示やアドバイスによってクライエントを変えようとするのではなく、受容や共感的理解のある関係の中で、その人自身の中にある成長する力が働きやすくなることを大切にする。
※2 フォーカシング
ユージン・ジェンドリンによって体系化された。
まだはっきりと言葉にならないけれど、からだで漠然と感じられている感覚に注意を向け、そこから意味や気づきが生まれ、体験が前へ進んでいくプロセスを大切にする。


